報告概要

報告1:子ども・若者のネットワークと不平等の再生産(内田龍史)
  1990年代以降、長期にわたる不況や産業構造の転換によって、高い失業率・不安定就労の増大など、若者の就労問題が生じている。報告者ら「子ども・若者と社会的排除」共同研究グループ(代表:西田芳正)は、大阪府内を中心に、社会的に不利な立場に置かれた若者を対象とし、彼/彼女らが失業・不安定就労に至る背景・プロセスについて実証的研究を重ねている。
  2003年に行われた生活史聞き取り調査からは、家庭の出身階層が相対的に低位にある者が高位の学歴達成を妨げられ、労働市場において不利な立場に置かれた結果、フリーターとして析出される過程が確認された。また、不利な立場に置かれた若者の遊び・ジェンダー・被差別部落居住といった側面から見出された身の回りのモデルの限定は、彼/彼女らが組み込まれているネットワークの質に着目する契機となった。
  こうした傾向を数量的に確認するために、2004年度には、進路多様高校生を中心として大阪府内の公立高校3年生を対象とした質問紙調査を行った。その結果、生育家族の社会階層・ジェンダー意識・身のまわりのモデル・自尊感情など、聞き取り調査で仮説として索出されたさまざまな要因が、高卒就職や卒業後のフリーター選択に影響を与えていることが確認された。さらに、2005年に行われた大阪府内の小・中学生を対象とした、子どもたちの進路展望に関する調査からも、ほぼ同様の知見が得られた。
 これら一連の研究は、不平等の再生産過程の諸側面を明らかにしてきたが、特に重要なのは、子どもの頃から異なる、組み込まれているネットワークの質的差異である。困難な状況に置かれた若者にとって支えとなる「地元つながり」の意味は大きいが、他方で社会関係の固定化や地域ぐるみの排除とも表裏一体の関係にある。こうした現状に対していかなる介入を行うべきかは、若者政策をめぐる大きな論点となる。

報告2:ひきこもり現象の原因と解決に向けた課題(井出草平)
  「ひきこもり」とは長期にわたって家族以外の他者との関係が失われる状態のことである。精神疾患や障害が原因ではなく、社会的なもの (不登校・イジメ)が主な原因として指摘されている。
  「ひきこもり」というものが現象として存在しているのは日本においてのみであり、その規模は岡山大学の調査によると41万世帯(2002年)32万世帯(2003年)と数十万人規模になっている。そして、この現象は1970年代から現れた極めて現代的な現象であることが判明している。この現代的現象を研究することを通じて、日本社会の特性を見出していくことが発表者の研究である。
  発表者はこの「ひきこもり」という現象に対して、経験者に質的調査を試み、社会学的な因果的説明を行った(井出草平,2007『ひきこもりの社会学』世界思想社)。「ひきこもり」は2つの類型に大別される。(1)「拘束型」という不登校経験を持つタイプ。このタイプは「拘束的」な環境に弱い。中学や高校といったような集団凝集性の高い生活に適応できず、不登校状態になり、その後、ひきこもり状態になるケースである。(2)不登校経験を持たないタイプ。このタイプは主に大学での「ひきこもり」に相当する。このタイプは「開放的」な環境に弱い。大学での「開放的」な生活に適応できなかったタイプである。この2つの類型は「拘束性」「開放性」という対立する性質を持つが、共に小学校・中学校・高校で「外部」を体験していないという共通性を持つことが分かっている。つまり、学校が要求する規範(勉強を真面目にする・真面目に授業をうける・反抗的な態度をとらず従順にしている)という価値以外のものを受容せず、純化された学校的な価値を内面化しているのである。社会が学校化していき、「外部」が喪失していく1970年代に、新興住宅地を・u梺・Sに「ひきこもり」は現れ始める。近代化の進んだ時期・地域に現れた現象と捉えられるのである。また、兵庫県で毎年行われている「トライやる・ウィーク」(職場体験や文化・芸術活動などの体験学習)では、「外部」を経験した不登校児童の登校改善率が毎年30〜40%と報告されている。学齢期における「外部」の体験の実効性が「トライやる・ウィーク」から見て取れるのである。