介護保険見直しのいくつかの論点 ― 障害者福祉の「統合」問題を中心に   報告者:杉野昭博氏(関西大学)

報告概要

  平成17年の介護保険法改正に向けてさまざまな論点や議論があったが、年齢制限撤廃が先送りとなったために、「給付抑制」だけがやや目立つ印象になっている。年齢制限撤廃が実施できなかった最大の理由は、障害者サービスを介護保険制度に組み込むことができなかったためだと考えられる。もともと障害者サービスは、介護保険サービスに比べて幅広い内容を持っており、そのすべてを介護保険サービスに転換することは無理があり、現行の介護保険に吸収できないサービスや給付をどのように保障していくのかといった点をしっかり詰めておかないと、障害者の不安や反対を払拭できない。また、社会保障審議会の委員のなかにも、リスクが限定される障害者福祉と、誰もがリスクを抱える老後のための介護保険との性格の違いを指摘する声もあり、障害者福祉と介護保険とを接続することは「無理筋」のような印象が広がる。
  たとえば、障害者サービスを介護保険に取り込まなくても、@給付を現状の65歳以上のままとしながら、負担だけを20歳以上まで拡大するか、A老人医療費制度と介護保険を統合するといった方法でも、財源問題の解決は可能に見える。にもかかわらず、障害者福祉との「統合」がめざされた理由を探すと、介護保険における保険料負担の増大に見合う税負担をどこから調達するのかという観点が注目される。仮に保険料負担を20歳以上にまで拡大すると年間7000億円の保険料増収となるが、保険料と税負担がそれぞれ五割と定められている介護保険制度の場合、税負担も7000億円増額しなければならない。そのためには、既存の税財源サービスを削減することによって介護保険の税負担増額分をまかなう必要があるだろう。したがって、介護保険の保険料を増額するためには、その金額に見合うだけの「税財源によるサービス」のリストラ、すなわち、介護保険制度への「統合」が必要となる。
  この意味では、「措置の保険化」という「社会福祉基礎構造改革」は、タコが社会保険という胴体を維持するために、措置制度という足を食べているような構図として理解することも可能かもしれない。