「『第三の道と家族政策』―イギリスのひとり親家庭政策の展開」 報告者:所道彦(大阪市立大学) 

報告概要

戦後のイギリスで築かれたベヴァリッジ型の福祉国家は、女性の就労率や離婚率の上昇によって、その前提条件(完全雇用と性別役割分担)が成立しがたくなった。 1970年代の労働党政権下での施策は、経済的な支援策を中心に展開されたが、公的な保育サービスの拡大などは行われず、実質的に男性稼ぎ主モデルの枠組みを変更することなく、生別母子家庭を処遇するものであった。他方、1990年代の保守党政権下での施策は、社会保障費の削減と家族責任の強化を意図して、家族(元夫)に養育費を負担させる仕組みを制度化した。 近年の「第三の道」の政策では「社会的排除」対策の一環として、ひとり親家庭に対して就労による参加が政策に位置づけられた。そのため、就労のための条件整備や保育施策の充実策などがとられた。「第三の道」政策は人への投資を重視し、社会の分断・分裂を防ぐ観点から政策が立案されている点は評価できるが、ひとり親家庭における近年の動向(所得補助を受給しているひとり親家庭の減少とともに、就労するひとり親の増加)は「第三の道」政策の結果であるかどうかははっきりしない。なぜなら、そうした動向は「第三の道」政策によってではなく、一般的な景気回復によってもたらされたものである可能性があるからである。 「第三の道」政策から日本が示唆を受ける点は、子どもの貧困対策が政策課題になって経済的支援が行われていることや社会的統合の観点から総合的に政策が立てられていることである。