1.「スポーツ障害」とは何か

 「スポーツ障害」とは、競技中の突発的なケガである「スポーツ外傷」と、過度の疲労の蓄積などによる慢性的な障害をさす「スポーツ障害」とに分類されることもあるが、いずれにしても整形外科的な視点から定義されてきた。つまり、これまでは、整形外科医の目から見た「スポーツ障害」にしか注目されてこなかった。本書が描こうとしているのは、スポーツ競技者の目から見た「スポーツ障害」であり、彼らの間では「ケガ」と呼ばれている経験についてである。

 このような視点から「スポーツ障害」をとらえることは、私が専門としている「障害学」の視点を「スポーツ障害」という現象に応用して研究しようという試みでもある。「障害学」というのは、障害を医師の視点からではなく、障害を経験する本人の視点から研究しようとする学問である。それは、「障害」についての見方そのものを転換させることにもつながるし、それを社会に訴えていく運動でもある。たとえば、「障害」というのは、必ずしも医学的に治療しなければならないものばかりではなく、目が見えなくても、耳が聞こえなくても、歩けなくても、たとえ、なおらない病気でも、精一杯生きていける社会を目指そうと訴えかけていくのは障害学の重要な使命のひとつだろう。この障害学の視点を「スポーツ障害」にもあてはめていこうというのが本書の目的である。つまり、「ケガ」をしていても、胸を張って競技者として生きていくためには何が必要なのか考えていくことが、障害学の視点からスポーツ障害を研究することである。

(杉野昭博『スポーツ障害から生き方を学ぶ―ケガをめぐる競技者たちの語り』2010年 生活書院より抜粋)転載はしないでください